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「は」と「が」の違いに関する考察(寄稿)

こちらの記事は、廣瀨伸一様よりご寄稿いただきました。

解説

周知のように、「は」と「が」の違いについては、数多くの教え方がある。では、それを教える際の基本的指針は、どうあるべきか?先ず言えることは、多くの学者や研究者、教師などがその「違い」について様々な学説や解釈を発表しているが、その説明に使われている言葉は、一般の日本人、ましてや外国人にとっては、聞き慣れない専門用語が多い上、説明が複雑であり、それらを理解することさえ容易いことではないということから、それら種々の説明を直接授業に持ち込むということは、学生に余計な負担をかけさせるばかりか、かえって理解を妨げると思われる。次に、解説方法であるが、種々の論文でもネット上の動画でも、先ず規則を挙げ、それに基づいて例文を出し、その「違い」を述べる、或いは、「は」と「が」を使った二文を列挙した後、説明を加えるというものが殆どである。

こういった方法は、結局のところ、規則や原理自体は分かったものの、実際の場面でどちらを使うべきかに関しては、実りある結果を生むとは言えない感がする。日本人の現実の言語生活を見ても、規則を考えてから、或いは、これから言うことは「~文」だと考えてから、「は」と「が」のどちらを使うか判断し、それを口に出す、などということはないであろう。「は」と「が」は、発話する際に、自然と区別されて出てくるものである。

したがって、この「違い」を教える際は、発話者の視点に立ち、如何なる状況で、何を言いたい時に、「は」と「が」を使い分けるのかを、学習者が容易に理解できる言葉で説明することが肝心で、それとは無関係な要素は教えない、ということが基本的指針となると筆者は考えて、中級上級学習者用にこの教材を作成した。その構成は、先ず、具体的会話の中で、「は」と「が」がどのように使われているかを観察して、「は」と「が」の基本的用法をしっかり把握した上、次に、それに関連した形で、それから派生した用法を説き、最後に、名詞修飾と従属節の問題を扱うというものである。

その際、筆者が考案した規則は、以下の通り。

  1. 発話者が、思考を介し、何かを説明する時、判断したことを知らせる時、何かを対比する時、この場合は全て「は」を使う。この際、文の焦点は、全て「は」の後ろである。
  2. 発話者が見た場面や現象、聞いた音、知っている事実を、思考を経ず、直接口に出して描写する時、また、自らの知識で何かを限定する時、この場合は全て「が」を使う。焦点は、描写の時は文全体、限定の時は「が」の前である。(限定する時に、焦点が「が」の後ろ来るものについては、この教案では省略した。)

これだけである。簡潔に言えば、①説明文、判断文、対比文には、「は」、それに対し、②描写文、限定文には、「が」、を使うということ、これだけである。下記の教材を読んでいただければ分かるように、これだけで、全て説明がつくのである。しかも、この「説明」、「判断」、「対比」、「描写」、「限定」という言葉は、学習者の使う言語の中にも必ずあるはずなのである。ここでは、「強調」するものは何か、これは「新情報」か「旧情報」か、或いは、これは「有題文」なのか「無題文」なのか等ということには、一切触れていない。何故か?それは、こういった「原理」は、「は」と「が」の使い方を理解するのに必要ないものか、矛盾を含むもので、教えないに越したことはないからである。

この点を更に詳しく見よう。

  先ず、「は」と「が」の助詞としての種類の相違を指摘し、そこから「主題」と「主格或いは主語」の違いを強調し、それに関連させて「は」と「が」を扱っている論文、動画が多く見られるが、この教材では、助詞としての種類の相違については、言及していない。それは、種類の相違を知ることそれ自体が、「は」と「が」を使い分けるようになれることを必ずしも保証しない、と考えるからである。もちろん、「話題」(「主題」)と「主語」(「主格」)の相違については、この教材でも説明している。

次に、よく見られる解説に、「は」は、その後ろを「強調」し、「が」は、その前を「強調」するというものがあるが、この方法は、特に強調しているわけでもないのに、全て強調として扱われるという不自然なものである上、文法的説明になっていない。更に、「彼が社長だ」という限定文では、焦点は「が」の前だが、「あ、犬がいる」という描写文では、文全体が焦点である。しかし、この「強調」説では、この「焦点」の位置の違いが無視されている。よって、教材では、取り上げない。さて、ここで、多くの解説が拠り所としている野田尚史教授の「六つの原理」を見るとこうある。

  • ①旧情報には「は」・新情報には「が」
  • ②現象文には「が」・判断文には「は」
  • ③有題文には「は」・無題文には「が」
  • ④措定文には「は」・指定文には「は」か「が」
  • ⑤文には「は」・節には「が」
  • ⑥対比には「は」・排他には「が」

この教材には、①、③、④、⑤はない。その理由は、こうである。

③に関しては、通常、「有題文」とは「話題」(「主題)を含む文で、「は」が使われ、「無題文」とはそれを含まない文で、「が」が使われる、と規定されている。しかし、これは、只そういう文に付ける名称の問題で、発話の際に、これを考慮するなどということは考えられない。

④も、③と同様、文の種類の問題に過ぎない。いわゆる「措定文」とは、「AはBだ」という文型において、AとBの概念にA<Bという関係がある文で、その場合、「BはAだ」と言えない文である。例を挙げれば、「犬は動物だ」という文は「措定文」であるから、「動物は犬だ」と言うと非文になる、ということであるが、考えてみれば、学習者が使うどの言語にしても、「動物は犬だ」という文が非文だというのは、この文の名称を知らなくても、分かるだろう。従って、④の原理も教える必要がないと思われる。

原理⑤は、言い換えれば、主節内と従属節内の助詞の問題であるが、正確ではない。この原理によると、前者では「は」、後者では「が」を使うとなっている。しかし、実際は、文の種類によって、前者にも後者にも「は」と「が」を使う場合がある。例文を挙げよう。

  • (a)彼家を出た時、雨降っていました。
  • (b)このボールペン、使いやすいですから、私、いつも使っています。

この問題は、(a)は、主節も従属節も「描写文」であることから、「が」を使い、(b)は、主節が「説明文」、従属節は「判断文」であることから、どちらも「は」を使うということで説明がつく。この教材では、「は」と「が」の基本用法を学んだ後、「一歩進んだ用法」として扱っている。

さて、①の旧情報か新情報かによって使い分けるという原理は、非常に多くの解説者によって使われているのが現状のようだが、はっきり言って、これは、非常に問題のある分け方である。幾つか例を挙げよう。

ある家電メーカーのセールスマンがある家を訪問したとする。ノックすると、すぐ、「どなたあ?」と聞いてくる。次にそのセールスマンは、こう返事する。「あの~、私O、✕✕電気の、山田と申しますが」。この原理によれば、「聞き手」にとって新しい情報の時は『が』を使うのであるから、それに従えば、ここは、「私」になる。しかし、実際には「私」である。これは、相手が自分を知らないのだから、相手に自分を紹介するという「説明文」であるから、「は」を使う、と解釈する以外説明がつかない。

次に、ある会社で、課長が今度入社した台湾人の陳さんを紹介する場面を見る。先ず、課長が「みなさん、きょうは、台湾から来られた陳さんを紹介します」と言い、その後、「陳さん、自己紹介してください」と陳さんを促す。この場合、既に課長が陳さんを紹介したので、他の社員にとって陳さんは「旧情報」である。この原理では、「旧情報」には、「は」を使うことになっている。では、この場合、陳さんは、「私今ご紹介に預かりました陳です」と言うだろうか?ノーである。彼は「私」というはずである。何故か?それは、この文は、今紹介された陳なる人物は、他でもない私だ、という意味で、限定用法だからである。それ以外の解釈では、説明できない。

また、この「新情報」というものは「未知」、「旧情報」というものは「既知」だという説明もある。では、これはどうだろう?ある会社の同僚の一人が、煙草を買い行った帰り、銀行の前で変な男を見かけたとしよう。この同僚は、会社に戻った時、他の同僚にこう言うだろう。「今7—11に行って来たんだけど、銀行の前に怪しい男立っていたよ」、と。この怪しい男は、話し手にとっても聞き手にとっても「未知」である。で、「が」が使われる。この原理では、こう説明するだろう。では、銀行の前に立っていた人物が、この同僚たちの上司、山田課長だとしたら、どう言うのだろうか?山田課長は、この課の全ての人が知っており、「既知」である。では、この原理に従って、「銀行の前に山田課長、立っていたよ」と言うだろうか?それはあり得ない。必ず「山田課長」と言うだろう。何故なら、「怪しい男立っていた」も「山田課長立っていた」も、その場面を直接口に出した「描写文」だからである。

ところで、この原理①の賛同者がその根拠として好んで取り上げるのが、昔話の「桃太郎」である。

「むかし、むかし、ある所におじいさんとおばあさん住んでいました 。おじいさん山へしば刈りに、おばあさん川へ洗濯に行きました。 」

という部分である。そして、最初の文では、おじいさんもおばあさんも初登場であるから、「新情報」。よって、「が」を使う。次の文では、この両人は2度目の登場で、既に読み手が知っているので、「旧情報」。よって、「は」を使う。こう説明される。では、3度目に登場する時はどちらであろう?この原理に従えば、当然「は」であろう。

しかし、この原理の賛同者は、見ていないようであるが、上の文に続く第3番目の文には、「おばあさん川で洗濯をしていると大きな桃が流れてきました。」とある。何とここでは、おばあさんの後ろは、「」である。大きな矛盾である。

では、何故「は」ではないのか?それは、最初の文と第3番目の「おばあさんが川で洗濯をしている」という文は、「描写文」だからである。また、第3番目の文の主節も「描写文」なので、「大きな桃」の後ろも「が」である。それに反し、2番目の文は「説明文」である。これ以外、説明がつかないであろう。この様に原理①には、一貫性がないので、教材にはない。

原理②の「現象文」とは、現象をありのままにそのまま表現する文と説明されているが、これは、単に「現象に留まらず、上の筆者の規則②にあるように、発話者が見たもの、聞いたもの、知っていること等々を直接「描写する」文と解せ、「描写文」とすべきである。また、ここには「判断文」と並べて「説明文」も含めるべきである。原理⑥の「対比」はいいとして、「排他」という語は、「限定」という語に変更した方が適切である。結局、原理②と⑥をこう修正したものが筆者の規則である。

以下が教材である。

教材:日本語自習講座:「は」と「が」の違い

第1課 説明するんですか、それとも、そのまま口に出すだけですか?

皆さん、こんにちは。それでは、さっそく始めましょう。

日本語を学習する過程で、ほとんど全ての学生さんが最も難しいと感じる文法は、助詞、それも、「は」と「が」の違いだと言うと、皆さん同意なさるのではないでしょうか?この問題についての参考書などは、決して少なくはないのですが、この「は」と「が」の文法概念をしっかり把握した日本語学習者なら、日本人と会話を交わす時、日本人と同じように「は」と「が」を正確に使いこなせると思いでますか?それほど簡単ではないでしょうね。

では、日本人はどうでしょう?日本人が「は」と「が」を正確に使えるのは、日本人がこの文法概念を完全に把握しているからなのでしょうか?いいえ、そうではありません。普通の日本人は、「は」と「が」の用法や規則を明確に説明することはできません。それなのに、「は」と「が」を正確に選ぶことが出来ます。それは、日本語が日本人の母語だからです。ですから、正確な選択は当然のことなのです。いわゆる母語とは、元々、小さい頃から生活の中で無意識に次第次第に学び取ったものですから、日本の子供が言葉の面でどのように成長するか、あるいはまた、どの様に話すかを観察分析するのも、無駄ではないでしょう。ひょっとしたら、ここに、「は」と「が」の用法を理解する手掛かりがあるかもしれません。

(A)

太郎という日本人の子供が友達の花子ちゃんと会話する時、何を話すでしょう?多分、こんな風でしょう。

  • ・花子ちゃん、これは、台湾のお菓子だよ。ー①
  • ・花子ちゃん、お父さんは、外で車を洗っているよ。ー②
  • ・花子ちゃん、僕は、来週、台湾に行くんだよ。

子供は多くの疑問を持つものです。そこで、こういう質問もあるでしょう。

  • ・花子ちゃん、それは、何?ー③
  • ・お母さん、お父さんは、どこへ行ったの?
  • ・お母さん、あの人は、誰?

お母さんも太郎に多くの質問をするでしょう。

  • ・母:太郎、それは、誰の鉛筆?
  • ・太郎:これは、花子ちゃんの鉛筆だよ。
  • ・母:花子ちゃんは、どうしたの?ー④
  • ・太郎;花子ちゃんは、家へ帰ったよ。ー⑤
  • ・母:その本は、面白い?ー⑥
  • ・太郎:うん。この本は、面白いよ。

その後、太郎は大きくなって大学に入って、学生生活の中でこう話すかもしれません。

  • ・クラスメートの佐藤さんは、可愛いね。ー⑦
  • ・授業は、少し難しいですけど、面白いです。ー⑧
  • ・あの先生は、どんな先生ですか?ー⑨

卒業して、会社に入った後、すぐ自己紹介です。

  • ・私は、大阪から来ました。ー⑩
  • ・私の趣味は、音楽とパソコン・ゲームです。
  • ・家族は、4人で、みんな大阪に住んでいます。

(B)

太郎が花子ちゃんと話している時、彼の父親が帰ってきました。太郎は、お父さんを見て:

・あ、お父さんが帰って来た。ー⑪

花子は一匹の蝶々が飛んできたのを見て:

・太郎ちゃん、見て、蝶々が飛んで来たよ。ー⑫

花子は桜がきれいなのを見て:

  • ・太郎ちゃん、見て、桜がきれいよ。ー⑬

花子は向こうで一匹の犬が寝ているのを発見して:

  • ・太郎ちゃん、あそこで、犬が寝ているわよ。ー⑭

太郎はいい匂いを嗅いで:

  • ・あ、いい匂いがする。ー⑮

太郎は雷の音を聞いて:

  • ・あ、雷が鳴った。ー⑯

花子は遠くにお兄ちゃんがいるのを見て:

  • ・あそこに、お兄ちゃんがいる。ー⑰

大学のクラスメートが太郎に:

  • ・ きのう、あの角で、事故があったのよ。ー⑱

他のクラスメートが太郎に:

  • ・来週、スピーチ大会があるそうよ。ー⑲

太郎は佐藤さんが泣いているのを見て:

  • ・あ、佐藤さんが泣いている。ー⑳

会社で同僚と話している時、同僚が太郎に:

  • ・先月、課長が結婚したそうだよ。ー㉑

太郎が課長にレポートを手渡す時、課長に:

  • ・課長、レポートができました。ー㉒

太郎が仕事中、パソコンが突然故障した時:

  • ・あ、パソコンが壊れた。ー㉓

上に掲げた例文を見ると、Aグループの主要名詞と代名詞の後ろは、「は」、それに対して、Bグループの場合は、「が」、だということがすぐ分かります。これは、決まった用法で、取り換えることはできません。では、どんな区別があるのでしょうか?もう一度詳しく見ると、次のことが分かります。

Aグループ「は」の後ろは、全部、「は」の前の単語(話題)に関する判断か説明です。例を挙げて確認しましょう。①の後ろ「台湾のお菓子だよ」は、「これ」についての説明。②の後ろ「外で車を洗っているよ 」は、「お父さん」が何をしているかの説明。⑤は、「花子ちゃん」の行動の説明。⑩の後ろ「大阪から来ました」は、「私」に関する説明。③と④は、疑問文ですが、疑問文に使う「は」は、相手に説明を求める働きがあり、回答者も、必ず「は」を使って説明しなければなりません。⑦と⑧の後ろは、「佐藤さん」と「授業」に関する判断です。他人にどう判断するか聞くときも、「は」を使います(例文⑥⑨。以上から分かることは、説明判断を要する話題を示す時は、「は」を使うということです。

では、Bグループの例文の特徴は何でしょうか?ここでの例文は、絶対に説明文でも判断文でもありません。例えば、⑪は、「お父さん」に関する何らかの説明や判断ではなく、太郎が見た場面を直接口に出して、花子に伝えた文です。

⑫も、「蝶々」に関する説明や判断でなく、⑪同様、太郎が見た状況を直接口に出して、花子に伝えた文です。

同じ様に、⑯も「雷」に関する説明ではなく、太郎が聞いた音を直接口に出して、花子に伝えた文です。

⑱も「事故」の説明ではなく、太郎のクラスメートが見た場面を直接口に出して、太郎に伝えた文です。

簡単に言えば、ここの全例文は、その場で見たもの(⑪⑫⑬⑰㉓)や聞いたもの(⑮)、嗅いだもの(⑯)、直接描写したもの(⑭⑳㉒)、あるいは、知り得た事実(⑱⑲㉑)を直接口に出した文です。

以上から分かることは、何らかの状況、場面、現象、或いは、知っている事実をそのまま口に出す時は、「が」を使うということです。そして、ここの「が」は、後ろの動作や状態の主語を表します。

皆さん、(1)説明、判断するー「は」、(2)描写する、つまり、直接口に出すー「が」、ですよ。

練習

では、簡単な練習をしてみましょう。下の状況で使うのは、「は」ですか、「が」ですか?選んでください。

①このスマホについて、説明する時:「このスマホ〇、日本製です。」

②向こうから来る自転車を見た時:「あ、自転車〇、来ますよ。」

③友達にガールフレンドを紹介する時:「この人〇、僕のガールフレンドです。」

④会議中、大きい音を聞いた時:「今、外で、大きい音〇、しましたね。」

⑤日本人に東京の天気状況を教える時:「東京の夏〇、とても暑いです。」

⑥昨日交通事故を見たことを伝える時:「昨日、ここで事故〇、あったんですよ。」

⑦ラーメンの味を言う時:「このラーメン○、おいしいです。」

⑧昨日日本で起きたことを知らせる時:「昨日、日本で地震○、ありましたよ。」

⑨銀行の場所を教える時:「銀行○、駅の向かいです。」

⑩道に落ちている財布を見た時:「あ、財布○、落ちています。」

第2課 「は」と「が」 (一)

A) は

(1)上で述べたように、基本的に、「は」は、思考を通して説明判断する時に使います。そして、「は」の働きは、話題を提出することです。皆さん、注意してください。「話題」と「主語」は違うもので、「主語」は、文の後ろの動作や状態の主体を現し、「話題」は、皆さんが話したい事、言いたい事、教えたい事などの全てを指します。時には、「話題」は、「主語」も兼ねますが、本来、「は」は、「~について言えば」、もっと詳しく言うなら、「~について説明すれば」、「~について判断すれば」という意味です。また、「は」の後ろは、話題について話者が下す説明判断ですから、全文の焦点は、「は」の後ろに来ます。例を挙げましょう。

・東京の春は、桜が綺麗ですね。

これは、後述する「~は~が構文」というものですが、ここの「は」は、主語を表すのではなく、全文の話題が「東京の春」だということを示し、「が」は、後ろの「綺麗です」の主語が「桜」だ、ということを示します。つまり、「東京の春について言えば、咲が綺麗だ」という意味です。ですから、(A)の例文中の①⑦の「これ」、「佐藤さん」は、主語でもありますが、本来の意味は、それぞれ、「これについて説明すれば、これは台湾のお菓子だ」、「佐藤さんについて判断すれば、彼女は可愛い」、ということです。

皆さんも、話したい事などの後ろは、「は」を使ってください。例えば、昨日見た映画の感想を言いたい時は、「昨日の映画は・・・」、ある人に対する見方を伝えたい時は、「あの人は・・・」、自己紹介する時は、「私は・・・」、飲んでいるコーヒの味がいいと言いたい時は、「このコーヒーは・・・」、自分の彼氏について語りたい時は、「私の彼は・・・」、という具合です。

更に、疑問詞の前は、全部「は」です。例えば、,「・・・は、何ですか。」、「・・・は、どこですか。」、「…は、いつですか。」、「・・・は、どうしてですか。」、「・・・は、誰ですか。」等です。これは、「は」の後ろは、全部、他人の説明や判断を要求するものだからです。

(2)「は」は、単に話題(や主語)を表すだけでなく、文中の他の名詞(大部分は目的語)の後ろにも使えます。つまり、文中の他の名詞を話題にしたければ、先ずその単語を言って、その後ろに「は」を付ければいいのです。下の文を見てください。

・ 山田さん、昼ごはんを食べましたか。

これはごく普通の言い方で、文中の「昼ごはん」は目的語です。もし、これを話題にしたければ、こう言えばいいのです。

・ 山田さん、昼ごはんは、食べましたか。

こうすると、元々の目的語「昼ごはん」は、話題に変わります。ここでは、「昼ごはんについて聞きますが~」といったニュアンスです。この様な表現方法は、「目的語の話題化」と呼ばれます。同様に:

・ 私は、もうこの映画を見ました。

「この映画」を話題にしたければ、こう言えばいいのです。

・ この映画は、もう見ました。

上の例では、この二文が話される状況が明らかなので、「私」、「あなた」は、省略できます。下の例文も同じです。

・ この小説は、明日読みます。

・ レポートは、ボールペンで書いてください。

ここでは、「この小説」、「レポート」は、元は目的語です。

(3)その他にもう一つ気を付けて頂きたいことがあります。それは、「話題+は」が及ぶ範囲は、ただ一つの文だけではないことです。下の例文を見てください。

・ 私は、山田です。大阪で生まれましたが、今、東京に住んでいます。高校の英語教師です。

最初の文の話題は「私」ですが、これは、第二文、第三文までかかります。聞く人は、第一文で話題を知っていますから、新しい話題を提出する場合を除いて、話者は、同じ話題を重複する必要はありません。ここでちょっと注意してください。「生まれました」の後ろの「が」は、この講座で解説している「が」とは、違う種類のもので、「しかし、でも」の意味です。

B) が

上に書いたように、「が」の働きは、文後半の動作や状態の主語を示し、見たものや聞いたもの、知り得た事実などを直接口に出す「描写文」で使います。この「が」の用法は、英語のbe動詞のように「が」の前後を連結するもので、全文が焦点となります。下の二文を比較してみましょう。

  • ① 富士山は、きれいな山です。
  • ② 富士山がきれいですね。

①は、説明文です。これは、他人に富士山はどんな山かを説明する時、言う文です。この文を言う時、恐らく、富士山は皆さんの目の前にはないでしょう。しかも、ここで言及した富士山は、今見ているものでも、昨日のものでも、10年前のものでもありません。富士山を一般的に説明した文と言えます。

②は、描写文です。これは、皆さんが、今、自分の目で富士山を見ていて、きれいだと感じた時、言う文です。多分、友達と一緒に富士山が見えるところを散策している時、こう言うでしょうね。ここの富士山は、その場で見ている富士山で、この文の内容には、暫時性があります。皆さんも、見た光景や聞いたもの、覚えている事実などを直接口に出して人に伝えたい時は、「が」を使ってください。

では、もう一つ例を挙げます。

③ 太郎は、隣の部屋で勉強しています。

④ あ、太郎が勉強している!

③は説明文で、疑問文「太郎は、何をしていますか」の答えに相当し、太郎がしていることを説明しています。それと、注意することは、この話者が、必ずしも、太郎のその様子を目にしているとは限らないということです。

④は描写文で、例えば、太郎の母親が帰宅した時、彼女が見た光景を描写しています。ここで注意することは、母親が見たものは、普段は全然勉強しない太郎が、今日は何と真面目に勉強している光景で、彼女にとっては、当然、意外な出来事で、この文には彼女が驚いているということも現れています。ですから、描写の「が」を使う文は、時には、話者の意外な気持ちや驚きも表します。同じ様に、いつもは穏やかで親しみやすい木村さんが、今日,激怒している様子を見たら、「あ、木村さんが怒った」と言えます。この描写文も、意外さと驚きを表しています。

下の二つの対話を見てください。

A: きのう、あの角で事故があったのよ。

B: それは、どんな事故だったの?

A: その事故は、トラックとバスの衝突よ。

最初のAは、状況を描写していますから、「が」を使い、Bは、相手の説明を求めていますから、「は」を使い、最後のAは、事故の状況を説明していますから、「は」を使っています。

A: このラーメンは、おいしいね。

B: あ、山田が来た。

A: 知っている?山田は、社長の息子だよ。

第一文は、判断文、第二文は、描写文、第三文は、説明文です。

更に、何か発見した状況を描写する時は、時々助数詞が付きますが、普通はその名詞を言うだけでいいのです。例えば:

・椅子が壊れています。

・桜がきれいです。

・一匹の犬が寝ています。

何故なら、描写文は、見た光景を直接言うだけで、具体的に説明するものではないからです。もし、主語の前に「この、その、あの」等々をつけると、説明文または判断文に変わってしまい、「は」を使うことになります。例えば:

・このパソコンは、壊れています。

・その花は、きれいです。

・あの犬は、寝ています。

練習

では、練習です

(1)括弧の中は、「は」ですか「が」ですか?

① このスマホ○、韓国製です。

② これ○、日本で買いました。

③ あの人○、誰ですか。

④ きのうの映画○、とても面白かったです。

⑤ 雪○、きれいな自然現象です。

⑥ 今、地震○ありました。

⑦ あそこに、スーパー○あります。

⑧ あそこで、女の子○泣いています。

⑨ 最近、外国人○多いですね。

⑩ ここから、富士山○見えますよ。

(2)どれが正しい文で、どれが正しくない文ですか?その理由は?

① 中森明菜は、有名な歌手です。

② 弟が毎朝7時に起きます。

③ 私は、あした旅行に行きます。

④ さっき、お母さんは、帰ってきました。

⑤ 誕生日がいつですか。

⑥ きのう、近くで、火事はありました。

⑦ 日本語は、難しい言葉です。

⑧ そこに、ゴキブリがいます

⑨ 今、大きい音は聞こえましたね。

⑩ 銀行がデパートの隣です。

第3課 「は」と「が」 (二)

A) 「が」

(1) 「が」には、もう一つの用法があります。下の二文を比較しましょう。

① あの人は、この会社の社長です。

皆さんお分かりのように、これは説明文で、社員が外部の人に社長を紹介する時、または、外部の人に「あの人は誰か」と聞かれて、社員が答える時使います。話題は、「あの人」、後ろが説明です。

② あの人が、この会社の社長です。

この文は、会社の中に入って、大勢の人の中で誰が社長かを限定する時使うもので、ここの「が」は、主語を表します。「どなたが、この会社の社長ですか」という疑問文の回答に相当するものです。この種の用法を限定用法と呼びます。注意することは、①の文の状況では、話者が文最後まで言うまでは、あの人が誰か誰も分かりませんから、焦点は、「は」の後ろです。他方、②の文の状況では、聞き手はみんな、この会社に社長がいることを知っています。話者は、それが誰かを特定するに過ぎず、焦点は、「が」の前です。この用法は、一般状況にも個別状況にも使えます。更に、この用法は、あなたが既に知っていること、記憶していることを直接口にすればいいのです。ですから、もし、知らなければ、ただ一句、「知りません」、それだけです。

もう一つ、ここにあなたの傘も含めて4本の傘があると仮定しましょう。もしこの時、誰かに「どの傘があなたのですか」と聞かれたら、次のように言わなければなりません。

・この傘が、私のです。

この文は、説明でも、判断でも、描写でもなく、自分の傘はどれかを限定するもので、もしこれを「この傘は、私のです。」とすると説明文に変わってしまいます。

限定文の後ろには、下の様に、名詞の他に動詞、形容詞も使えます。

・この鉛筆が、一番安いです。

・彼が、一番ハンサムです。

・彼女が、全部食べました。

A:きのう、新しいスマホを買ったんでしょう?見せて。

B、C:見せて。見せて。

D:これが、そのスマホですよ。

Dは、ここで「は」を使うことはできません。何故なら、ここの用法は、Dが昨日買ったスマホはどれかを限定する文だからです。AもBもCも、Dがスマホを買ったことは知っていて、焦点は、どれがその新しいスマホかということです。同様に、クリニックで看護士があなたを探している時も、次のように答えてください。

看護師:山田さんは、どなたですか。

山田:私が、山田です。

山田さんの答えは、看護師の捜している人は誰かを限定するものですから、当然「が」です。もしここで、「私は、山田です。」と答えたら、自己紹介の様になってしまい、話が合いません。

A:どれが、あなたの靴ですか。

B:これが、私の靴です。

A:すみません。どの部屋が、会議室ですか。

B:あ、あの部屋が、会議室です。

A:どちらが、いいですか。

B:ん~、こちらが、いいです。

④⑤とも、複数の靴あるいは部屋から、一足の靴あるいは一つの会議室を限定しているのがすぐ分かりますね。「誰が、・・・」,「どこが、・・・」,「いつが、・・・」,「どの+名詞が、・・・」等の疑問詞の後ろの「が」も限定用法だということに注意してください。答える時も、「が」を使います。

他の例文を見てみましょう。

⑦ 

A:静かな所で休みましょう。

B:ええ。ああ、あの公園が静かよ。

A:大きい箱ね。何が入っているの?

B:大きい人形が、入っているのよ。

子:あれ、僕のケーキがない。

母:花子が、食べたのよ。

⑦は、静な場所を限定、⑧は、箱の中のものを限定、⑨は、ケーキを食べた人を断定しています。

もう言う必要がないと思いますが、⑨の子供の台詞の「が」は、限定の「が」ではなく、状況描写の「が」だということです。

更に、幾つか例文を見ます。

⑩富士山は、日本で一番高い山です。

⑪富士山が、日本で一番高い山です。

⑫まあ、富士山が、きれいですね。

⑫太郎は、ニンジンを食べました。

⑬太郎が、ニンジンを食べました。

⑭あ、太郎が、ニンジンを食べた!

⑩と⑫は説明文、⑪と⑬は限定文、⑫と⑭は描写文です。ただ、⑭は、話者の、意外な気持ちと驚きも反映されています。

(2)「が」は、上で説明した主語を限定する用法の他に、別の限定用法もあります。それは、対象を限定する用法です。下の例文を見てください。

・私は、コヒーが好き/嫌いです。

・彼は、英語が上手/下手です。

・私は、カメラが欲しいです。

・彼は、休養が必要です。

これらの例文は、全部説明文で、先ず「は」で話題を示し、説明を加える構造ですが、ここの「が」は、全部、後ろの「好き/嫌い」「上手/下手」「欲しい」「必要」の対象を限定しています。これらの単語は、全て形容詞ですが、幾つかの動詞の前も「が」を使います。例文です。

・私は、今、お金が要ります。

・彼女は、漢字が分かります。

・彼は、ピアノができます。

・私は、カレーが/を食べたいです。

・彼は、フランス語が/を話せます。

後ろは全部動詞で、ここでの「が」は、動詞の対象を限定するのに使われています。なお、最後の「~たい」と可能形の二文では、「を」と「が」の両方が使えますが、「が」を使うと強調効果が出ます。

(3)もう一つ、目的語を「話題化」した後に使うという用法もあります。例えば:

・私がケーキを食べました。

これは、普通の限定用法ですが、目的語の「ケーキ」を「話題化」し、こうも言えます。

・ケーキは、私が食べました。

他の例を挙げましょう。

・彼が、この絵を描きました。→この絵は、彼が描きました。

・李白が、この詩を書きました。→この詩は、李白が書きました。

・お父さんが、晩ごはんを作ります。→晩ごはんは、お父さんが作ります。

・私が、ビールを買いに行きます。→ビールは、私が買いに行きます。

それぞれの目的語は、全部「話題化」され、後半に限定句が続きます。この際、「が」の後ろには通常動詞が来ます。

B) 「は」

(1)上で、「は」が話題(時に主語も兼ねる)を示す働きを持っていることを学びましたが、ここからもう一つの用法、「対比用法」というものが出てきます。下の例文を見てください。

① 私は、犬が好きです。でも、猫が嫌いです。

この文は、好き嫌いの対象を語っており、犬と猫を比較しています。この時、犬と猫を話題として対比文ができるのです。どの様に?こうです。

② (私は、)犬は好きですが/けど、猫は嫌いです。

この種の文型は、「~は~が/けど~は」構文と呼び、説明文です。あなたが対比したい名詞の後ろに「は」をつければいいのです。「私は」の「は」は、全文の話題を示しますが、省略されることがよくあります。そして、後ろの二つの「は」が、対比する話題を示します。また、焦点は全体です。ここでの「が」は、この講座で扱っている「が」とは違う種類のもので、「でも、しかし、けど」という意味です。「が/けど」は、どちらもいいですが、「けど」の方が比較的口語的です。もう少し例文を:

・(私は、)バドミントンは上手ですが/けど、ピンポンは下手です。

・(彼は、)英語はできますが/けど、中国語はできません。

・(彼女は、)ビールは飲みますが/けど、日本酒は飲みません。

上二文の「は」は、本来は対象を表す「が」、一番下の文の「は」は、本来は目的語を表す「を」です。会話ではこのように。

A:陳さんは、日本料理を食べるでしょう?

陳:はい。でも、天ぷらは食べますけど、お刺身は食べません。

A:あの歌手のコンサート、行った?

B:うん、顔は可愛かったけど、歌はよくなかったよ。

次に、この話題対比の「は」は、助詞の後ろにも使えます。例えば:

A:先週、日本へ行ったんでしょう?どこへ行きましたか。

B:はい。東京へは行きましたが、大阪へは行きませんでした。

A:この歌、流行っているわね。

B:あら、そう?日本では、流行っているけど、欧米では、全然知られていないわよ。

ところで、日本人は、対比の後ろ半分を言わず、省略することがよくあります。これは、二つの理由からです。一つは、心理的配慮からです。例えば:

A:コーヒーあるけど、飲まない?

B:ん~、紅茶は好きなんですけど・・・。

A:Bさん、中国語、できますか。

B:え~、英語はできますが・・・。

④のBは、これに続けて、「コーヒーは嫌いなんです」と言ってもいいのですが、それを言うとAが気を悪くするかもしれないと察して、省略したのです。同様に、⑤でも、続けて、「中国語はできません」と言えたのですが、相手の気持ちを考えて、言わなかったのです。

もう一つの理由は、強調です。例えば:

A: 皆さんに会いましたか。

B: 山田さんには、会いましたけど・・・。

ここで、Bは、「山田さんには、会いましたけど、他の人には会いませんでした」ということを暗示しており、後半を省略することによって、彼が山田さんにあったという事実を強調しています。もう一つ:

A: この問題、どうですか。

B: ん~、私にとっては、難しいです。

ここでは、Bは、「他の人にとっては、易しいかもしれませんが、私にとっては、難しいです」 ということを暗示しており、前半を省略することによって、自分にとっては、難しいということを強調しています。

ここにも気を付けることがあります。下の例文を見てください。

A:Bさん(は)、きれいですね。

B:ありがとう。

これは、ごく普通のBさんに対するAさんの判断ですが、ここで、もし、「今日は」と入れたら、Bの反応はどうでしょう?

A: Bさん、今日は、きれいですね。

B: あら、今日だけ?じゃ、いつもは、きれいじゃない、ということ?

Bの反応には、大きい差があります。それは、Aが言ったことは、「今日は、きれいですが、いつもは、きれいではありません」ということを暗示してしまうからです。

(2)上で述べた「は」以外に、それとは違う種類の用法があります。それは、「最小限の『は』」と呼ばれるもので、「少なくても、遅くても、」という意味があります。助数詞、時間、金額などの後ろに使われます。例文です。

・私は、日本へ3回行きました。

・私は、日本へ3回は行きました。

上の文は、日本へ行った回数は、ちょうど3回、下の文では、少なくても3回、だから3回以上ということです。更に:

・彼は、きのうコーヒーを3杯は飲みました。

・私は、きのう9時間は寝ました。

・彼女は、毎月、小説を3冊は読みます。

それぞれ、昨日飲んだコーヒーは3杯以上、昨日寝た時間は、9時間以上、毎月読む本は3冊以上を表します。では、下の文は?

・この手紙は、9月10日に着くでしょう。

・この手紙は、9月10日頃(に)着くでしょう。

・この手紙は、9月10日には着くでしょう。

手紙の着く日は、最上の文では、9月10日当日、真ん中の文では、大体9月10日前後、最後の文では、遅くても9月10日、つまりその日以前、ということです。

(3)「~は~が」構文

この文型は、「名詞Aは、名詞Bが+形容詞+です」 という構造を持ちます。例えば:

・佐藤さんは、髪が長いです。

全文は説明文で、「は」で話題を提出します。でも、「が」の後ろは、形容詞を使った描写文で、この「が」は、主語を示します。一般的に言って、人が人とか物とか何かを見た時、最初に視野に入るのはその一部ではなく全体です。これが、話題となり、「は」を使い、「が」の後ろは、話題の持つ特性や属性を表します。言い換えれば、「佐藤さんについて言えば、髪が長い」ということです。上例は、佐藤さんの特性の一つで、他にも言えます。例えば:

・佐藤さんは、目が大きいです。

・佐藤さんは、足が長いです。

同じ構造です。更に;

・東京は、人が多いですね。

・あのレストランは、カレーがおいしいです。

・この公園は、木が多いです。

ここで、いろいろ議論を引き起こしていると言われる問題を検討してみましょう。下の文の違いは何でしょう?考えてみましょう。

①象は、鼻が長い。

②象の鼻は、長い。

この二文の意味は大体同じですが、着眼点が違います。①の場合では、例えば、動物園で象を見た時、先ず視野に入ってくるのは、象の一部であるその鼻ではなく、象全体でしょう。もしそうなら、象全体が着眼点となり、それが話題となります。ですから、その時は、「像は」と言わなければなりません。その後ろは、発見した象の特性を続けるのです。「鼻が長い」の他にも、「目が小さい」、「耳が大きい」等と特性を変えられます。

では、②の場合は?ここで、「動物鼻博物館」なるものを仮定しましょう。ここに入ると、すぐたくさんの動物の鼻が目に入ります。その中で象の鼻に注目したとします。ここには、象はいません。ただ象の鼻があるだけです。ですから、ここでは、象の鼻だけしか話題にできません。そこで、「像の鼻は」と言い、その後ろはそれについての判断を言います。「は」が話題を示し、後ろは判断、という構造です。

つまり、①の内容は、象の特性の一つ、②の内容は、象の鼻に関する判断です。

練習

では、練習問題です。

括弧の中は、「は」ですか「が」ですか?

① きのう新しい服を買いました。見てください。これ○、その服です。

② どこ○、壊れたんですか。

③ 先週のパーティー、山田くん○、来ました○、佐藤さん○、来ませんでした。

④ 東京○、新宿○にぎやかですよ。

⑤ この犬○、妹○飼っています。

⑥ コナンの映画○見ました○、ゴジラの映画○見ませんでした。

⑦ ここから駅まで、30分○かかりますよ。

⑧ それは、私の傘ではありません。その左の傘○、私のです。

⑨ その服○、誰○着るんですか。

⑩ 私の犬○、目○可愛いです。

第4課 整理

A) 「は」 

①説明または判断の「は」

*話題(主語を兼ねる場合もある)提示→それについて説明または判断する

*焦点は、「は」の後ろ

*一般状況にも個別状況にも使える

*文中の目的語も対象も話題化できる

・山田さんは、図書館で本を読んでいます。

・この小説は、あした読みます。

・この服は、母が作りました。(ここの「が」は、限定用法)

②対比の「は」

*主語、目的語、対象語を話題にし、対比説明する

 (他の助詞と共に使うこともある) 

*焦点は、全体

*一般状況にも個別状況にも使える

・ビールは飲みますが/けど、日本酒は飲みません。

・音楽は好きですが/けど、ダンスは嫌いです。

・バスには乗りましたが/けど、電車には乗りませんでした。

③最小限の「は」

*助数詞、時間、金額などの後ろ

*一般状況にも個別状況にも使える

・私は、いつも7時間は寝ます。

・こういう腕時計は、5万円はします。

B) 「が」 

①描写の「が」

*主語提示→五官を通して受け取った状況や現象、

 或いは、知り得た事実などを直接口に出す。

*全文が焦点

*個別状況に使用

・雨が降って来ました。

・ガラスが割れています。

・トマトが、赤くなりました。

②限定の「が」

*知っていること、記憶していることを直接口に出す

*焦点は、「が」の前

*一般状況にも個別状況にも使用

a.主語限定

・彼が、社長です。

・あの人が、私の財布を取ったんです。

b.対象限定

・私は、英語が下手です。

・私は、今、パソコンが要ります。

c. 目的語を話題化した文で使う

・そのCDは、私が買いました。

・この人形は、母が作りました。

C) 「~は~が+形容詞」構文

「は」は、話題を示し、「は」の後ろは、話題の特性、属性を示す。

・中国は、人が多いです。

・このスマホは、デザインがいいです。

練習問題

括弧の中は、「は」ですか「が」ですか?

佐藤:山田さん○、九州出身ですか。

山田:いいえ、私○、北海道生まれですよ。

佐藤:えっ、そうですか?

田中:佐藤さん、私○、九州出身ですよ。

山田:田中さん、さっき、電話○ありましたよ。

田中:そうですか。

佐藤:皆さん、ここに、かばん○ありますね。どなたのですか。

山田:あ、それは課長のです。でも、課長はどこ?

田中:あ、課長○来ましたよ。

太郎:どの店に入ろうか?

花子:この店○、いいわ。

太郎:何を飲む?コーヒー?

花子:私○、ミルク・ティー○好きだけど、コーヒー○あまり好きじゃないの。

太郎:そう。その服、素敵だね。

花子:ありがとう。この服○、私○自分で作ったのよ。

    あら、このミルク・ティー○、味○変だわ。

太郎:店長を呼ぼう。すみません。どなた○、店長ですか。

店長:私○、店長です。何か?

山田:山登り○、楽しいですね。

佐藤:ええ。あ、ここから、湖○、見えますよ。

田中:きれいですね。あ、見てください。あそこで、子供○、笑っていますよ。

山田:ああ、お父さん○、変なダンスをしているんですよ。

第5課 一歩進んだ「は」と「が」

(1) 動詞で名詞を修飾する用法

先ず下の例文を見てください。

・これは、雑誌です。

これはごく簡単な文ですが、文中に「雑誌」とい名詞があります。名詞を修飾する方法はいくつかあり、名詞、代名詞、い形容詞、な形容詞など全て使えます。「日本語の本」、「彼の本」、「面白い本」、「有名な本」等です。では、動詞の場合は?もちろん使えます。例えば:

・これは、きのう、買った雑誌です。

ここの「買った雑誌」がという部分が、動詞で名詞を修飾している用法です。名詞の前は、一般に「普通体」を使わなければなりません。では、誰が買ったのでしょう?話者、「私」です。動詞の主語が「私」の時、普通、それはよく省略されますが、それを言う時はどう言うでしょう?「は」でしょうか、「が」でしょうか?こうです。

・これは、昨日、私が買った雑誌です。

文中の「私が買った」という部分が、後ろの「雑誌」を修飾する部分で「修飾節」と呼びます。この様な修飾節の中の文は、説明文ではなく、描写文か限定文です。ですから、修飾節の中の主語の後ろは「が」を使うわけです。この様の修飾用法には、下記の三種類があります。

① 述語名詞の前

・あれは、山田さんが描いた絵です。

・この時計は、父がくれたプレゼントです。

・これは、明日の朝、私が飲む牛乳です。

・あれは、友達が住んでいるアパートです。

これらは、全部説明文で、「は」は話題を示し、その後ろが修飾節です。もし、この「は」を「が」に変えると、下の様に限定文になってしまいますので気を付けてください。

・あれが、山田さんが描いた絵です。

・この時計が、父がくれたプレゼントです。

・これが、明日の朝、私が飲む牛乳です。

・あれが、友達が住んでいるアパートです。

ここでは、最初の「が」が全文の主語、後ろの「が」が修飾節の主語を表します。

② 話題の前

①の上段であげた説明文は、全部、「は」の前後が交換できます。

・山田さんが描いた絵は、あれです。

・父がくれたプレゼントは、この時計です。

・明日の朝、弟が飲む牛乳は、これです。

・友達が住んでいるアパートは、あれです。

こうすると、説明文が判断文に変わり、「は」は話題を示し、「絵」,「プレゼント」,「牛乳」,「アパート」は、全部話題に変わります。これらが、修飾節を話題の前に置いた例文ですが、下記の様に、修飾節に主語がない場合もあり、その場合は、「が」もありません。

・あした、コンサートに行く人は、山田さんと佐藤さんです。

・お酒を飲まない人は、田中さんです。

③ 目的語の前

ここでも同じですが、修飾節内に主語があれば、必ず「が」を使います。

・私は、娘がパーティーで着る服を買いに行きます。

・彼は、来週私たちが遊びに行く所を調べています。

・弟は、山田さんが持ってきたケーキを食べてしまいました

・私は、子供がなくした財布を見つけました。

ここの「服」「所」「ケーキ」「財布」は、全て目的語です。

(2) 一文の中に二組の主語と動詞がある文の場合

こういう文は、普通、接続助詞(「~たら」、「~と」等)やある種の名詞(「~時」等)、また、条件形(「~ば」)などを使って、二文を連結した時、現れます。例を挙げると:

・仕事が終わったら、(私は、)山田さんとお酒を飲みに行きます。

ここには、文前半に「仕事が終わった」、後半に、「私は…行きます」という二組の主語動詞があり、接続助詞「たら」で結ばれています。この様な構造を持つ文を「複文」と呼び、接続助詞がある方を「従属節」、ない方を「主節」と呼びます。意味上、より重要なのは「主節」で、「従属節」は、「主節」の動作や状態に関する条件を表します。ここでは、「主節」でも「従属節」でも、その文が描写文か限定文の場合、「が」を使い、他方、それらが説明文か判断文の場合、「は」を使います。つまり、「主節」でも「従属説」でも、文の種類によって、「は」も「が」も来るということです。例文を見ましょう。

①彼が着く前に、(私は、)駅に着きました。

②私が家に帰った時、母は、寝ていました。

③電車が止まったので、彼は、歩いて家へ帰りました。

④時間があれば、(私は、)旅行に行きたいです。

⑤成績が悪くても、彼は気にしません。

⑥私が結婚した時、山田さんがプレゼントをくれました。

⑦彼が家を出た時、雨が降っていました。

①から⑤までの主節は、説明文ですから、主語の後ろは「は」を使い、⑥の主節は限定文、⑦のは描写文ですから、両者とも主語の後ろは「が」を使います。ここでの従属節は、全て描写文なので、全て「が」です。また、主節が説明文の場合は、下の様に書き換えられます。

①私は、彼が着く前に、駅に着きました。

②母は、私が家へ帰った時、寝ていました。

③彼は、電車が止まったので、歩いて家へ帰りました。

④私は、時間があれば、旅行に行きたいです。

⑤彼は、成績が悪くても、気にしません。

すると、話題が最初に来て、動詞が最後、従属節が真ん中という構造に変わりますが、意味は同じです。ここで注意。⑥、⑦のように、主節が限定文か描写文の時は、この書き換えはできません。

もう少し例を挙げておきます。

・お金があれば、(私は)外国を旅行したいです。

・赤ちゃんが寝た後、お母さんは、本を読み始めた。

・父が部屋に入ると、息子は、もう寝ていた。

最後に、原因理由を表す助詞「~から」「~ので」、或いは、名詞「~ため」のつく従属節の場合を見ておきましょう。ここも、「主節」、「従属節」の文の種類によって、「は」と「が」を使い分けます。例を挙げましょう。

・事故がありましたから、(私は、)遅刻しました。

・お父さんが早く帰って来たので、息子は大喜びです。

・電池が切れたため、このスマホは、今、使えません。

・あのレストランが一番安くて、おいしいので、私達は、そこで食事しました。

・このボールペンは、使いやすいですから、私は、いつも使っています。

・彼の家は、私の家から近いので、(私は、)よく遊びに行きます。

・このアパートは、最近、建てられたため、住人が少ない。

・妹は、刺し身を食べないので、私が食べました。

①の上三つの「従属節」は描写文、最後は限定文ですから、「が」を使います。②の最初の従属節は判断文、その他は説明文ですから、「は」を使います。「主節」に関しては、3番目が判断文、その他は説明文なので、全部「は」です。ついでに言うと、②の最初の2文は説明文。ですから「は」。第三文中の「が」は、描写用法、最後の一文の「が」は、限定用法です。

もう一つ、既に出た対比を表す「~は~が/けど、~は~」構文の他に、注意するものは「のに」です。「のに」には意外・逆接を示す用法以外に、対比用法もあり、その時は従属節にも「は」を使います。例えば:

①もう7月なのに、暑くない。

②山田君のお兄さんは、優しいのに、山田君は、すぐ怒る。

①は、普通の「のに」、②は、対比の「のに」です。

練習

では、練習です。

括弧の中は、「は」ですか「が」ですか?

① 私○住んでいる所○、大阪です。

② これ○、きのう、山田さん○公園で撮った写真です。[説明文]

③ これ○、きのう、山田さん○公園で撮った写真です。[限定文] 

④ 山田さん○今朝食べたもの○、パン一つでした。

⑤ 母○、妹○持って行くお弁当を作っています。 

⑥  佐藤さん○ご飯を食べている時、地震○ありました。

⑦ 娘○怪我をしましたから、私○、薬を買いに行きました。

⑧ 値段○安かったら、私○、買います。

⑨ 私○、頭○痛くても、勉強しなければなりません。

⑩ みんな○帰った後、彼○、一人で掃除しました。

解答

第一課

①は ②が ③は ④が ⑤は ⑥が ⑦は ⑧が ⑨は ⑩が

第二課

練習1

① は. 説明

② は. 目的語の話題化

③ は. 他の人の説明を求める

④ は. 自己判斷、説明

⑤ は. 説明

⑥ が. 感した現象

⑦ が. 存在描写

⑧ が. 情況描写

⑨ が. 最近の現象を描写

⑩ が. 見た光景

練習2

正しい文: ①③説明文。⑦判断文、⑧描写文

正しくない文:②弟の習慣を説明、「は」 ④状況説明、「が」⑤他人の説明を求める、「は」⑥昨日起きたことを知らせる、「が」、⑨今、聞こえた音、「が」、⑩銀行の場所の説明、「は」

第三課

①これが

②どこが

③山田さんは、来ましたが、佐藤さんは

④台北は、西門町が

⑤この犬は、妹が

⑥中正紀念堂は、見ましたが、101ビルは

⑦30分は

⑧その左の傘が

⑨その服は、誰が

⑩私の犬は、目が

第四課

山田さんは

私は

私が

電話が

かばんが

課長が

この店が

私は/ミルクティーは/コーヒーは

この服は/私が/このミルク・ティーは/味が

どなたが

私が

山登りは

湖が

子供が

お父さんが

第五課

① 私が住んでいる所は

② これは、きのう、山田さんが(説明句) 

③ これが、きのう、山田さんが(限定句)

④ 山田さんが今朝食べたものは

⑤ 母は、妹が 

⑥  佐藤さんが、地震が

⑦ 娘が、私は

⑧ 値段が、私は

⑨ 私は、頭が

⑩ みんなが、彼は

以上の記事は、廣瀨伸一様よりご寄稿いただきました。