日本語教育に音読を導入してみたい!という声は時折聞かれますが、じゃぁ一体どうやって、どんな教材を使って行えばいいのでしょうか。
音読って、ただ後に続いて読ませればいいの?
毎日何分ぐらいやればいいの?具体的な方法は?
と疑問点を抱える人も多いかもしれません。
音読といっても様々な方法があり、やり方は1つではありません。また、学習者の段階に応じて、活動を工夫しなければならないとも言われています。
そのため、学習者に足りない部分を知り、それを補うことを目的とするのであれば、それが音読のどの方法を用いることで効果的に行われるのかを見極めなくてはいけません。
今回は具体的な音読に使える教材をメインに紹介します。
音読をする目的は?
教師が理解していることが大切
そもそも音読を導入する目的は、何でしょうか。
- 効果があると聞いたから?
- 昔からやっているから?
各先生によって理由は様々だと思いますが、そもそもどんな目的をもって音読練習を行うのか、を意識することは大切です。
- 文章内容の理解が深めるため
- 語彙の記憶力を上げるため
- 表現力を身につけるため
など、期待される効果によっても考えられる目的は多岐に渡ります。では、音読には一体どんな効果があるんでしょうか。
そもそも、なんとなく「効果がある」と信じている人も多いかもしれませんが、本当に効果があるんでしょうか。
音読は効果があるのか?
読解力の低い学習者に効果あり?
先行研究を読めば、昔から音読の効果については多数議論されていることがわかります。導入場面も、日本語教育ではなく、国語教育、英語教育など様々です。
音読の重要性についての言及は、今に始まったことではなく、國弘(1999)の只管朗読にみられるようにこれまでにも何人もの英語の達人たちが言及してきたことである。
奥羽・福元 (2011)「英語授業における音読活動の効果的指導法について- クローズ音読の活用法-」
ただ、ここ最近の音読に関する声の高まりは、川島(2003)をはじめとした脳科学という分野を通した音読と言語習得との関連性や、音読を通した脳のメカニズムの解明が進んだことにもその原因の一端があるのであろう。
奥羽・福元 (2011)「英語授業における音読活動の効果的指導法について- クローズ音読の活用法-」
川島先生は、『脳を鍛える大人の音読ドリル―名作音読・漢字書き取り60日』でも有名な方ですね。
もう少し遡ってみてみます。
Elgart(1978)では、「音読と黙読をそれぞれのグループで導入したあと、理解度テストを行った。その結果、音読グループの方がテスト結果がよかった」ことが述べられています。
Miller & Smith (1985)の調査では、「事前のテストで読解力が低いとわかっている児童には文章理解において音読の効果があったが、読解力の高かった児童には効果がなかった」とあります。
若い読み手や読解力の低い読み手に関して、高橋(2007)や、有働・小原(2014)では、「認知的な課題の処理を遂行する際の容量に限界がある」ことにも触れています。
若い読み手や読解力の低い読み手は、黙読では集中力の高低や周囲の環境に左右されやすく、注意資源の配分が適切にできない。それに対して音読は、声を出す行為によって、強制的に注意資源を読むことに集中させられる。その結果、読み手の注意資源の量によらず、一定の読解成績を保つことができると考えられる。
有働・小原(2014)「音読の学習効果に関する一考察-聴解、黙読、つぶやき読みと比較して-」
つまり、
- 黙読の場合・・・環境に関係なく集中して読める人もいれば、影響されてしまって読めない人もいる。
- 音読を導入する・・・強制的に読むことに集中することになり、読み手の元々の能力に影響されず一定の読解成績を保つことができる。
ということのようです。
音読 vs 黙読?
上記のように音読と黙読はよく比較され、しばしば音読は成人には効果がないと言われることもあります。
ですが、森(1980) は大学生を対象に研究を行い、「音読は文章を読んだ直後のテスト成績は高かったが、時間をおいたテストでは、黙読の方が音読より成績が高かった」という結果を報告しました。
つまり、音読は短期記憶に優れているが、黙読は長期記憶に優れているということのようです。
ただし、内容理解に関しては、黙読の方が音読よりテストの成績がよかったけれど、差は有意ではなかったそうです。
つぶやき読みとは?
その他、音読や黙読だけでなく、つぶやき読みも入れて比較した研究もいくつかあります。
「つぶやき読み」というのは、自分自身が聞こえる程度の声で、ぶつぶつと読む方法です。(人によって定義が違うこともあります)
田中(1983)が幼児を対象に実験を行った結果では、
- 物語文中の語を再生する:音読をしたグループの結果がつぶやき読みと黙読より優れている
- 物語理解:つぶやき読みの方が黙読と音読より優れていた→つぶやきが幼児の物語理解の促進に有効である
ということがわかったそうです。
では、これまでのことを見て「じゃぁ、年齢が低い学習者や、読解力が低い人には効果があるが、成人への効果は薄い?」こう結論づけてしまうことへの疑問も、有働・小原(2014)で述べられています。
日常生活で使われている「声を出す活動」を振り返ると、言葉を記憶したい場合や、理解が難しい語に遭遇した場合には、無意識に声に出して考えていることが多い。文章を読んでいても、黙読したあとで音読をすることによって、新たな理解を得たと実感することはある。この実感には根拠はないのだろうか。今後、この時間を裏付けるような音読の効果を、幅広い年齢にわたって検証していきたい。
有働・小原(2014)「音読の学習効果に関する一考察-聴解、黙読、つぶやき読みと比較して-」
確かに、音読をすることで理解が深まったという体験をした人は少なくなさそうです。
では、実際に音読を導入している人で「効果があった!」と感じている人はいるのでしょうか。
巷の声は?
実際に音読の導入をすることで上達したという体感をした方もいらっしゃるので、日本語教育以外の方も含め、いくつか巷の意見をみてみます。
あまり「音読効かなかった〜」ということを敢えてつぶやく人も少ないのかもしれませんが、それでも過去の研究から学び、さらに「効果があった!」という声を聞くと「導入してみよう!」と思う方も多いのではないでしょうか。
【教材】日本語の授業に音読を取り入れる方法
では、音読を導入する際、日本語教育の場合はどんな教材を使ったらいいのでしょうか。
まずは、音読に使える教材(書籍)を紹介してしていきます。
にほんご音読トレーニング
おすすめは初級後半から使えるこちらの本。音読の練習に使うだけではもったいない!と思うぐらい、読んでい興味深く、飽きこない内容のものが多いです。
【書籍紹介】にほんご音読トレーニング
ホテルの利用案内やプレゼンの発表例など実用的な内容に始まり、「雨にも負けず」「枕草子」など日本の名作に音声と読みを通して触れることもできる教材です。
こちらの本を読み物や敬語の練習として使った活動例も紹介していますので、興味のある方はご覧ください。
音読の導入方法
いろいろなやり方がある
次に、実際に授業で音読を導入する方法についてみていきます。
「ただ読めばいいの?」という疑問を持つ方も多いかもしれませんが、それだけではありません。
『日本語教師のためのアクティブ・ラーニング』 のp.129 「F. リーディングの指導」の中で詳しく音読練習のやり方がイラストを用いて説明されていますが、「いろいろと学習者を飽きさせない音読メニューを20,30と持っておくといい」とあります。
実際には、
- 教師の後に続いて繰り返す
- チェーンドリルにする(少しずつ長くしていく)
- 教師が一回読んだ後に学生は2回リピートする
- ペアで音読する(席を変えたりして緩急をつける)
- 役割音読
- スクリプトから離れる方法
- Read and Look Up
- たけのこ音読
などこの他にもいろいろネタがあり、「こんなにたくさんの方法があるんだ!」と驚かされます。
ここでの詳しい説明は省きますが、ぜひこちらの書籍を参考にしてみてください。
【書籍紹介】日本語教師のためのアクティブ・ラーニング
個人的には、「学生がどうしてもスクリプトに頼ってしまいがちな時に離れさせる方法」のところで、眼から鱗でした。
回数はどのぐらい?
さらに音読を導入する回数についても疑問に思うかもしれませんが、1つのユニットを一回の授業で終わりにするよりは、数回に分けて何度も繰り返した方が効果的だとあります。(「にほんご音読トレーニング」p.15)
気持ちを込めよう
音読で陥りがちなのが、学習者がただただ後に続いて読むだけで、実際に抑揚などを無視してしまうパターンです。
「もっと気持ちを込めて読んで!」と言っても、どうしたらいいのかわからない学習者も多いはずです。
そんな時には、「1つの言葉に、いろいろなシチュエーションをつけて言ってもらう」という練習を取り入れてみるといいかもしれません。
例えば「そうですか」という言葉1つをとっても
- びっくりした様子なのか
- 疑問に感じているのか
- 納得して、それを相手に伝える感じなのか
- 一人で納得した様子なのか
などによって表現の仕方が変わってきます。
いろいろな表現方法がありそうな言葉のリストを用意してもいいですが、「はぁって言うゲーム」を使って楽しく練習するのはどうでしょうか。
「はぁ」「好き」「ワン」などのお題があり、それぞれのお題につき8種類のシチュエーションがあるので、発話者がどの場面を想定して「はぁ」と言ったのかを当てるゲームです。
授業前に1枚カードを選んで、8種類の言い方を考えてパフォーマンスしてもらってからその日の音読活動に移るというのもいいですね。
まとめ
一口に音読といっても、様々なやり方があることがわかります。「音読トレーニング」に、音読は「発音・聴解力・語彙力・会話力など、語学の総合的な力の向上につながると考えられている」とあります。
また、音読だけにとどまらず、もっと「音声教育を勉強したい!」と言う方には、以下の書籍もおすすめです。
ベトナム語、タイ語、インドネシア語話者の音声の誤用の傾向なども詳しく記述があり、各母語話者に合わせた練習方法なども載っています。
<参考文献>
- 奥羽充規・福元広二 (2011)「英語授業における音読活動の効果的指導法について- クローズ音読の活用法-」
- 有働裕・小原亜紀子(2014)音読の学習効果に関する一考察-聴解、黙読、つぶやき読みと比較して-
- 浦上典江 (2004)「日本語教育における音声指導」
- 國田祥子・山田恭子・森田愛子・中條和光(2008)「音読と黙読が文章理解に及ぼす効果の比較」
- 田中敏(1983)「幼児の物語理解を促進する効果的自己言語化の喚起」
- Elgart, Denise B.(1978)"Oral Reading, Silent Reading, and Listening Comprehension: A Comparative Study" Journal of Reading Behavior, v10 n2 p203-07
- Miller, S. D., & Smith, D. E. P. (1985) "Differences in literal and inferential comprehension after reading orally and silently. Journal of Educational Psychology: 77(3), 341–348